前年度までの研究では、分権的な市場における貨幣的均衡の分析を行い、定常均衡は非決定であり均衡集合は連続無限濃度を持つことを示した。本年度は、主に集権的な市場モデルの貨幣的均衡に関して分析を行い、分権的市場と同様の結論が得られるかを分析した。具体的には、以下の結果を得た。 1.マッチングモデル以外の、均衡解が非決定になる具体的な貨幣モデルを発見した。これにより均衡が非決定になる論理の一端が明らかになり、貨幣経済の性質としての非決定性がどの程度成立するか、ある程度判明した。具体的には、ある特殊なオークションによる取引が行われる市場においては、それが集権的か分権的市場であるかに関わらず、均衡が非決定になることを示した。また、オークション市場における均衡は、市場参加者が非常に多くまた取引費用が存在しない場合でも、ワルラス均衡とは異なる配分を達成することを示した。これにより、従来のワルラス市場の無制限な適用に疑問を投げかけた。 2.定常均衡をやや弱くした準定常均衡の概念を導入し、定常均衡が決定になる場合でも準定常均衡は非決定になる可能性があることを示した。具体的にはある種のcash-in-advance経済では連続無限個の均衡サイクルが存在することを示した。これにより、貨幣経済の新しい種類の不安定性を発見した。 3.均衡計算の手法としてpolytope上の線形停留点を計算する効率的なアルゴリズムを開発した。
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