貨幣を含むランダムマッチングモデルにおける貨幣的均衡の分析を行い、以下の結果を得た。 1.貨幣が分割可能である場合には、定常均衡はかなり普遍的に非決定であり均衡集合は連続無限濃度を持つことを示した。 2.税・補助金体系を適切に選べば、連続無限濃度の定常均衡から効率的なものを選んで、それを局所一意(locally unique)な定常均衡にすることができることを示した。 3.均衡価格分散(均衡で、1つの財について2つ以上の均衡価格が共存すること)が、かなり普遍的に起きることを示した。 4.定常均衡の存在を証明する新しい手法を開発し、それを適用してこれまで均衡存在が示されていなかったいくつかのモデルについて存在証明を行った。 5.均衡計算の手法としてpolytope上の線形停留点問題の解を計算する効率的なアルゴリズムを開発した。 また、マッチングモデル以外の、均衡解が非決定になる具体的な貨幣モデルを発見した。これにより均衡が非決定になる論理の一端が明らかになり、貨幣経済の性質としての非決定性がどの程度成立するか、ある程度判明した。具体的には、ある特殊なオークションによる取引が行われる市場においては、それが集権的か分権的市場であるかに関わらず、均衡が非決定になることを示した。また、オークション市場における均衡は、市場参加者が非常に多くまた取引費用が存在しない場合でも、ワルラス均衡とは異なる配分を達成することを示した。これにより、従来のワルラス市場の無制限な適用に疑問を投げかけた。
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