研究概要 |
従業員個人の人事考課,昇進・昇格,賃金などの履歴を年々記録・蓄積した企業内の人事データは,企業がいかなる人事政策を採り,どのような報酬構造を実現しているのかを,結果面で厳密に把握するための不可欠の資料である。本研究では,人事データの提供と従業員意識調査の実施に内約を与えてくれた製造業企業A社の報酬構造を実証的に分析する。 以下の3つの方法による分析を重層的に積み重ねることが本研究の目的である。1.聞き取り調査の方法を用いて,当該企業の人事制度とその運用状況を聴取する。2.人事データの計量分析の方法により,人事制度とその運用,さらには制度改革が,人事部や管理者の意図通りに実現しているのか否かを分析する。3.従業員意識調査(アンケート調査)の方法により,人事戦略の変更や処遇格差の拡大に対して,従業員個人がどのような反応を示すかを解明する。こうした手法により,(1)企業は意図した報酬構造をどこまで実現できているか、(2)人事政策と報酬構造(およびその変化)はどのような成果を生み出しているかを明らかにする--これが本基盤研究の課題である。 平成15年度は,先行する研究や調査の包括的展望を行った上で,A社の人事部,および事業部門長に対して,in-depthな聞き取り調査を実施した。また,入手した人事データの予備的分析を行った。すなわち,1.人事制度に関する制度設計を行ったA社の人事部,ならびに人事制度を実際に運用している各事業部門長に対して聞き取り調査を行い,人事制度に関する経営側の意図と,その運用上の問題点を明らかにした。2.人事データは,統計解析の目的のために整備されたものではないから,欠損値や異常値など,データとしての不備がみられるのが普通であるため,これを分析可能なパネル・データへと変換し,予備的分析結果を得た。
|