研究概要 |
本研究では,人事データの提供と従業員意識調査の実施に内約を与えてくれたA社の報酬構造を実証的に分析する.本研究では,以下の3つの方法による分析を重層的に積み重ねる.1、聞き取り調査の方法を用いて,当該企業の人事制度とその運用状況を聴取する.2、人事データの計量分析の方法により,人事制度とその運用,さらには制度改革が,人事部や管理者の意図通りに実現しているのか否かを分析する.3、従業員意識調査(アンケート調査)の方法により,人事戦略の変更や処遇格差の拡大に対して,従業員個人がどのような反応を示すかを解明する. 平成16年度は,前年度に行った聞き取り調査と整理した人事データに基づき,A社が1993年と1996年に実施した雇用調整(希望退職募集)を分析した.その結果,第1次雇用調整においては,在職者全体・自己都合退職者と希望退職者との比較から,希望退職者の職能資格等級や給与は相対的に高いにもかかわらず,査定点は在職者と同等程度であり,自己都合退職者よりも低いことが判明したつまり,この回は,希望退職者は会社にとって辞めてほしい人だったといえる.これに対し,第2次雇用調整においては,同様の比較から,管理職層では在職者全体と希望退職者との間の査定点はほぼ同等程度であったが,非管理職の資格の低い層では希望退職者の査定点が有意に高く,自己都合退職者と希望退職者との間には査定点の差はないことが明らかとなった.これから,非管理職層で能力の高い者が流出している可能性があるといえる. 平成16年度は,2000年人事制度改革が報酬構造に与えた影響を分析する予定であったが,聞き取り調査の過程で,それに先立つ雇用調整が人事改革の重要な前提条件であったことが判明したので,研究計画を見直し,雇用調整問題を先行的に分析した.
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