研究概要 |
本研究は,国内の市場構造や経済制度が国際貿易や資本形成などに及ぼす影響の理論的・実証的分析をテーマに,4年間にわたって行われてきた.研究を通じて,国内の競争政策の貿易への影響の理論分析(7本)や実証研究(1本),技術革新にともなうダンピングの理論分析(2本),国内法制度の資本形成への影響の理論分析(10本)など多数の研究が主にレフェリー付国際学術誌に発表された.そのほか,研究の周辺を固める理論分析(7本)がやはりレフェリー付国際学術誌に発表された. こうした研究で,研究テーマと密接に関わる特筆すべき結論は以下のようにまとめられる.(1)通常の貿易モデルを,貿易財の国際市場を川上市場,サービスの国内市場を川下市場とする,垂直的分業モデルに拡張すると,川下市場における競争抑制政策が通常の関税政策と同様の効果が創出でき,その効果は現実的な意味では関税政策に代替できるほど大きい.(2)新規市場の開拓時に発生するネットワーク外部性のもとでは,新規参入市場において,企業は限界費用より低い価格で製品を販売する可能性があり,それが多くの貿易市場におけるダンピングを説明する可能性がある.(3)国内の法制度を通じて,国内市場の競争のあり方や市場の機能に重大な変化が発生し,資本形成が大きく影響される. これらの研究から一般論として分かるのは,法や制度が国内市場,国際市場に関わらず,市場での取引のあり方に大きく関わることである.特に,本研究から派生した「市場の質」という考え方は,今後のミクロ経済学に新しい視点を与えることが期待される.
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