研究概要 |
1 プロダクティヴ・エイジングという概念枠組みは、高齢者の生活の自立の条件を「労働」に求め,「労働」のあり方と「労働」を保障する条件の整備に力点を置くものである。これに加えて、高齢者の生活環境がどう自立を保障するのかという都市の生活環境の観点からもアプローチする必要がある。 2 高齢者の「労働」のあり方とそれを保障する社会システムについての理論的な考察をするために、フェイビアン社会主義、オーエンやモリス、ベラミらのユートピア思想に関する文献を蒐集した。これらの思想が描く共同社会がどのように高齢者に労働を保障しているのか(あるいはしていないのか)についてのまとめは、次年度の課題である。 3 福山市における高齢者の生活調査を行い,次のような結論をえた。(1)福山市の高齢化率を町内別に出した結果、市街中心地と,早い時代に造成された郊外団地が,急速に高齢化していること,(2)とりわけ郊外団地の高齢化は、自立した生活をいとなむ環境(たとえば日常生活必需品を購入する店舗がなくなる、交通手段がないなど)が急速に悪化していること、(3)昔ながらの周辺部で、まだ農業が少しのこっているところも、高齢化はすすんでいるのだが、ここでは、高齢者の労働の保障が畑つくりという形で存在しており、高齢者へのアンケート調査では、こうした生活を営む高齢者の健康と自立がもっとも保障されていることが明らかになった。 4 長野県や島根県での農村部での高齢者の健康調査に取り細んでいる竹島伸生教授らの調査研究をヒアリングした結果、高齢者が自立し生活をするための重要な要素として、健康に自立して生きるという個々人の「思想」つまり「生きがい」のもつ重要性が指摘された。高齢者個々人にとっての「イデオロギー」の持つ意味も、検討することが課題である。
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