1 経済学におけるエイジズムの成立とその構造が明らかになった。 (1)「効率」と「利潤」の追求を本旨とする近代資本主義経済学において、エイジズム(高齢者差別)は、歴史的に成立したものであり、セクシズムやレイシズムと同じ構造をなしている。イギリスの古典経済学では高齢者は、労働市場や「家族」からはみだした無能な労働者や貧困者と同一視され、「救貧法」の対象とされていた。 (2)19世紀末になって、「国民的効率」が問われるようになると、社会福祉の理念が成立し、女性や子どもとともに高齢者を救済し保護するシステム(老齢年金など)が成立し、同時に労働市場からの排除(「リタイアメント・システム」)がシステム化した。 (3)20世紀後半、フェミニズムが広がると共にその影響を受けて、高齢者の「労働権」を軸にした「プロダクティヴ・エイジング」をどのように構築するかが、問題にされはじめた。 2 生活時間調査にもとづく現代日本の高齢者の実像が明らかになった。 福山市(都会と農村混在型)、島根県広瀬町(農山村型)、そして名古屋市(都会型)に住む高齢者の生活時間アンケート調査と面接調査を行った。この調査の結果、プロダクティヴ・エイジングをもっともよく実現しているのは、広瀬町の高齢者であり、都市の団地に住む退職高齢者がエイジズムにもっともとらわれていることがわかった。 3 運動老年学の成果をプロダクティヴ・エイジングの観点から検討した。 4 プロダクティヴ・エイジングを実現する条件は次のようなものである。 (1)労働した成果にたいする社会的評価システムが存在すること(雇用労働や自営業を含む)、(2)軽度の日常的な肉体の行使(畑作業、あるいはバランス運動やエアロビクス運動やレジスタンス運動を組み合わせた総合的なエクササイズを含む)、(3)他の人たちとのコミュニケーション(家族をこえた近隣社会における)のシステムが存在することである。
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