本研究は2年間の研究計画の1年目であり、以下のような知見や結果を得た。 1 非定常時系列のためのモデルと長期記憶性をもつモデルを分析するための従来の分析方法に関してまとめ、そのプロセスの中で、従来の分析方法による欠点を明らかにして、それらを補う方法について考察した。 2 ウェーブレットによる方法の適用可能性について、種々の可能性を探った。具体的には、長期記憶性をもつ時系列を描写するフラクショナルARIMAモデルにおける差分パラメータの推定について、最小2乗法のほかに、最大推定法も考察した。さらに、観測誤差が加わった場合の推定問題や検定問題も考えた。 3 ウェーブレットの方法によって、金融時系列を含む経済時系列の構造変化、あるいは跳躍点の検出問題を考察する基礎固めを行い、従来の先行研究の方法との比較を行った。 4 ウェーブレットの利点の1つは、ウェーブレット変換後の系列が定常性、あるいは無相関性を保証される場合があるという点である。フラクショナルARIMAに代表される長期記憶時系列がこの性質をもつことは知られているが、その他にもこのような特性をもつような時系列の可能性を探った。 5 ウェーブレットの数学理論は、多くの数学者により深い結果が得られているが、統計学への応用については、その理論の複雑さや、とっつきにくさのために、未開拓な部分が多い。そこで、この観点から、特に、時系列解析への応用の観点から、ウェーブレットの方法を解説した論文を執筆した。 6 海外の専門家と交流する有意義な機会をもつことができた。
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