信頼は能力や法的・社会的圧力や私利追求と独立した概念であるという考え方が心理学等の分野で支配的であったが、それらは明確に分離できないことをまず論じた。また、信頼は黒白の問題でないことも明らかにした。さらに、信頼の議論では効率性の基準が重要であることを指摘し、信頼は効率性を高めるから重要であることを主張した。 学生を使ってゲームの実験を行い、その結果に私利追求と文化がどの程度影響しているかを分析した。「繰返し囚人のジレンマ・ゲーム」の実験では、説得によって協力が格段に増大することが明らかになった。「最後通牒ゲーム」の変形では、平等という価値がきわめて重視されることが判明した。他者の目の前で「信頼ゲーム」を行うと先手の示す信頼度やゲーム結果の効率性が高まることも明らかになった。効率性に対する文化の好ましい効果は、「説得」や「科罰」や「監視」などの積極的な活動によって顕著に増幅する。 スエーデンの研究者と協力して、学生を使った信頼に関する意識調査と分析を行った。その結果、両国には対象による信頼度のランキングに多少の相違があること、家族に対する信頼は他種類の信頼を減じないこと、教育(文化)が信頼形成にとって重要なこと、シグナルを基に信頼の意思決定をする個人は非協力的であることなどが判明した。 調査会社を使って一般労働者に対するアンケートを行い、成果主義賃金制度の導入等によって職場の信頼等がどう変化したかを分析した。特に、職場での協力、情報・技能伝達、組織忠誠心、経営者への信頼、生産物の質(効率性)にどのような変化が生じたかを回帰分析等で調べた。その結果、同制度にはこれらの点で幾多の問題があることが判明した。業績評価の対象にはならないが重要な仕事が組織にあることも確認できた。
|