平成15年度は主に海外での研究活動が中心であった。平成15年夏には英国ロンドン大学イムペリアル校にて情報の非対称性の理論研究を行った。現在その研究成果を滋賀大学経済学部のワーキング・ペーパーにまとめる作業を行っている。英国は医療経済学研究のひとつの拠点でもあり、ヨーロッパにおける医療経済学研究を吸収した。なかでも、情報の非対称性を明示的に考慮し、英国公的医療保険制度(NHS)を理論的・実証的に分析している医療経済学研究者との交流は、わが国の公的医療保険制度のメカニズム・デザインを考える上で、大きく役立った。わが国の公的医療保険制度は基本的にインセンティブ・コンパティブルな制度になっていない。すなわち、医療供給者と医療需要者間で情報の非対称性がある限り、この点を改善しない限り、望ましい医療制度改革は達成できない。この点を理論的に明らかにし、制度改革においてどのような点を理論的に考慮しなくてはならないかを分析した。 一方、高齢化をも念頭としたシミュレーション分析の分析枠組みの構築も進めた。従来の高齢化分析の理論的枠組みを医療をも含んだ形でどのように拡張できるかを考察してきている。これは平成16年度につながる研究で、最終的研究成果の発表は平成16年度後半に行われる予定である。さらに、このシミュレーション分析の基礎ともなる実際の医療関係データの整理・入力も行った。厚生労働省から公表されているデータを加工・整理し、当該研究に利用できるデータとして整理している最中である。
|