研究概要 |
矢作川流域社会ネットワークは、矢作川流域住民が自らのコスト負担で流域コモンプールを保全しようとする自発的な社会実験である。伝統的な公共財理論と外部性理論のコンセプトを用いて説明するならば、この社会実験は「公共財の自発的供給システムに基づいて外部性の内部化を目指す」試みであると言えるかもしれない。しかし、このような伝統的な概念に基づく論理にはCollective Actionの視点が欠けており、協調行動に伴うフリーライダー問題を克服する論理としては不十分である。140万以上の流域受益者住民のネットワークは、大規模集団であるにもかかわらず、その協調行動の組織化が可能であるためには、その前提条件として「選択的誘引(Mancur Olson,1965)」が与えられていなければならない。本研究はこのようなオルソン命題が「矢作川流域社会ネットワーク」にも成立する事を、現地調査とアンケート調査によって明らかにすることを目的とするものであった。研究プロジェクトの初年度において下記の仮説を確認した:(1)ネットワークが組織されたのは、その母体である「明治用水改良区組合」と「漁業組合」の存在が不可欠であること、(2)各母体組織はそれぞれの「選択誘引」に基づいて組織されたていたこと、そして、これらの組織に依拠して、かれらの集合財である流域コモンプールに対する自発的な保全活動が組織された。この結果に基づいて16年度には、森林の生み出す公益の大小が協調行動に及ぼす影響を明らかした。主要な結果は次の通り:(4)河・海の保全活動に比して、森林保全活動が不十分であるのは、その保全活動の便益が保全コストに比して小さいためである。(5)森林便益の相対的過小を補完するには、エコ商品のような新たな選択的誘引を非営利ビジネスによって起業化することが有効であること。 研究結果は、流域森林の保全に対して社会起業家の役割と、その人材教育の重要性を確認するものである。
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