研究課題
基盤研究(C)
本研究においては、労働市場における賃金等の不確実性が、労働力の地理的移動のスピードと変動に与える影響を考察した。理論的には、近年応用が広がっているオプション理論を適用し、中長期的な賃金上昇の期待と不確実性が、不可逆性の大きい労働移動に与える影響を、一般均衡理論の枠組みで分析した。具体的には、単純な一般均衡モデルの枠組みで、移動コストに異質性のある農村労働者の都市部への移動のダイナミックスを、可能な限り理論的に特徴づけようと試みた。その中で、一般均衡にすることで、従来オプション理論では外生的に与えていた価格過程が内生化され、ある時点で予想される価格の分布が、マルコフ過程では描けない「歴史依存性」を持ってくることが分かってきた。2年目より、数学者(厚地)のグループ加入を得て、内生化された賃金過程の解の存在など、基礎的な数学構造の解明を進めた。その結果、賃金過程の「歴史依存性」の処理については、2変数のマルコフ過程として書き直すことで、解の分布を導出することができた。この解法は、通常オプション理論の分析で行われるような偏微分方程式への書き換えを通さずに、直接最適停止間題を解くものとのなった。その解に基づき、具体的な分布関数を労働者の異質性(移動コスト)の分布にあてはめ、数値シミュレーションを行った。シミュレーションの結果は、解析的な解から予想される振る舞いと一致し、また、経済学的な直感ともほぼ一致した。これにより、当初計画していた一般均衡理論が完成した。よく考えてみると、この一般均衡モデルは、労働移動に限らず、どのようなリアルオプションモデルでも利用可能な結果である。我々は結果として、そのような一般的な問題に対する一つのアプローチを提案したことになる。理論部分は予想以上に複雑で新しい問題を解決することができた。予定されていた実証研究は、現在も分析中である。
すべて 2005 2004
すべて 雑誌論文 (12件)
薬師寺泰蔵編薯『グローバル・セキュリティ入門』(慶應義塾大学出版会)
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