研究概要 |
本研究の目的は,グローバル競争とモジュール化が,中国自動車産業の企業間関係や生産システムをどのように変容させるかを明らかにすることである。以下の3点が明らかになった。 1.グローバル競争のもとでの日米欧完成車メーカーの現地生産戦略の転換 中国のWTO加盟以降のグローバル競争のもとで,日米欧完成車メーカーの現地生産戦略は,「世界同一品質」「世界同時販売」に変化している。また,完成車メーカーは,「選択と集中」の方針のもとに,モジュール方式を積極的に導入し,サプライヤー・システムを再編成している。部品の統合度を向上させるモジュール化の進展にともなって,一次サプライヤーの役割は大きくなっており,開発と量産の双方において,従来完成車メーカーが担ってきた役割を部分的に果たしつつある。一次サプライヤーは「グローバル・システム・サプライヤー」として,中国やASEANに進出し,メインプレーヤーとしての役割を果たしている。 2.「体化されたグローバリゼーション」 多国籍企業によるグローバル競争は、確かに世界市場をめぐる競争ではあるが,個性をもったローカル市場をめぐる競争となる。「グローバル競争下における多国籍企業のローカライゼーション戦略」が問題の焦点である。ローカライゼーション戦略においては,地域ごとの「経路依存性」への適応が重要である。中国の場合,(1)国内産業保護の色彩の強い産業政策,(2)旧ソ連からの技術移転,「三線建設」などの歴史的拘束条件が,重要である。そのため,中国自動車産業においては,日米欧多国籍企業と中国地場アセンブラーとのマルチ・アライアンス(複数企業との合弁)が特徴的である。 3.サプライヤー・システムの変容 このような「経路依存性」は,日米欧一次サプライヤーの立地戦略に影響を及ぼす。モジュール化導入に積極的な日系完成車メーカーA社の事例にもとづけば,モジュール部品を担当するC社は,A社の組立工場のある内陸部と沿岸部の双方に立地している。一次サプライヤーは,一方では「グローバル・サプライヤー」として,他方では「システム・サプライヤー」として,二重の投資負担に耐えなければならない。 また,日系一次サプライヤーは,中国進出の際の出資形態を合弁から独資へ変えつつある。それにともなって,中国の地場サプライヤーの役割が変化しており,彼らは,一次サプライヤーから二次サプライヤーへの下方移動をとげつつある。
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