野北は女性と男性の就業構造について産業別・職種別に焦点をあてて統計的な国際比較分析を行った。その結果、世界的に男性が多い産業・職種と女性が多い産業・職種は共通しており、その偏りの程度に違いがみられること、男性の割合が多い産業では、長期的にみても男女比率に大きな変化は見られないこと、先進国では労働力率でみて男女の差が小さい国ほどある特定の部門に女性の就業が集中していること、先進諸国、特にヨーロッパ諸国の中で強い性別分業の傾向がみられること、等が示された。 このようなことから、労働市場における性差の問題を考える場合、「生物学的性差」と「社会的性差」は不可分であることを前提とすべきではないかということを、あらためて確認した。 一方、矢野は男女間の雇用形態の差異について考察し、男性労働者と女性労働者が常用雇用者として同じ雇用条件を提示されても、期待生涯所得に対する実現可能性の確率が男女間で異なる場合には所得格差が生じる可能性があることについて説明した。 期待生涯所得に対する実現可能性の確率が男女で異なる理由としては、「生物学的性差」が作用していると考えられるが、実際に「生物学的性差」と「社会的性差(性差別)」を厳密に区分することは困難である。 「男女間格差」が生じてもその格差が「生物学的性差」だけによるものであれば経済現象としては所得格差として問題はないと考えられる。しかし、「生物学的性差」に基づく格差によって、企業はリスクプレミアムの見地から長期の常用雇用を希望することの多い男性労働者をより多く雇用するようになり、それが社会通念として慣習化することにより、「生物学的性差」が「社会的性差(性差別)」という形で「男女間格差」を生み出す場合に社会的問題として認識されることを説明した。
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