矢野は、常用雇用者として男性労働者と女性労働者が同じ雇用条件を提示されるにもかかわらず、期待生涯所得に対する実現可能性の期待値(確率)が男性労働者と女性労働者で異なるために、「男女間の所得格差」が結果として生じる可能性があると説明している。さらに、女性の期待生涯所得の期待値が異なることで雇用形態の選択が異なる可能性が存在することを説明している。女性が「生物学的性差」に基づく行動の選択の結果として、男女間の賃金格差が生じても経済現象としては問題無いと考えられるが、その所得格差が社会通念として慣習化することにより、「生物学的性差」が「社会学的性差」という形で「男女格差」を生み出す場合には社会的問題となることを理論的に示している。 一方、野北は地域分析および統計分析を行っている。地域分析については、アジアの軌跡とまで言われた高い経済成長とアジア通貨危機を契機にした急激な経済縮小を経験したASEAN諸国を対象としている。現地調査を通じて得た情報を踏まえて、そのような経済変動に伴う女性労働の変化と全体的な現状について考察している。統計的分析では、「生物学的性差」と「社会的性差」の視点から業種・職種別の就業構造で観察される性差について、所得水準や制度、文化が異なる各国間で共通の特色があることを示している。このことは、矢野による理論的な分析結果が、女性の職種や業種の選択行動に関しても説明できる可能性を示唆している。
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