平成16年度には、既に開発したソフトウェアを用いて2003年の日本の貿易指数データベースを作成した。これらの貿易指数データを使って、人民元の実質為替レート変化と東アジアの貿易構造変化の定量的な分析を行った。 アジア経済が99年以降、今日まで順調に回復している主たる理由は、純輸出の急拡大である。そして、輸出が伸びた要因として大きかったのは、実質為替レートの低下であった。現在の水準は80年代以降でも最も低い水準にあり、これはロシアや中南米諸国の危機とは大きく異なる点である。アジアで通貨危機にあった国々では、通貨の大幅下落にもかかわらず、その後のインフレが抑制されているが、その最大の理由は、期待インフレ率の低下にあったと考えられる。 2003年に日本を含む東アジアの経済状況で大きな問題になったのは、中国の人民元の切り下げ問題である。購買力平価を使って為替水準の妥当性を検討するなら、消費者物価指数ではなく、輸出入価格などの貿易財価格を用いて検討するのが妥当である。しかし、中国の輸出物価指数が公式統計として存在しない。このため、日本の中国からの輸入価格指数を使って、これを中国全体の輸出価格指数であると仮定して元の購買力平価を推計してみた。90年を基準とした場合、2002年には、元の対ドルレートは23%、対円レートは30%も購買力平価の理論値を下回っているが、対アジア通貨では、対韓国ウォンで40%高、対フィリピン・ペソでは50%高など、元が相対的に高くなっている通貨が多い。以上を総合した人民元の実質実行為替レートは、86年以降、非常に安定しており、94、95年以降では、むしろ徐々に高くなってきている。また、長期的に見ると、中国の米国や日本からの輸入比率は低下し、NIEsやASEAN4からの輸入比率が急増している。こうした動きは、上で見た地域別の実質実効為替レートの動きと整合的であった。
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