研究概要 |
本研究においては、現代日本の非典型雇用者の就労意思決定を規定している諸要因を意識調査データの多変量解析で解明することが試みられた。就労意思決定の事項として、入職、離職、移動、職種の選択、労働時間の選択、雇用形態の選択、キャリア選択に注目した。また本研究では、就労意思決定を自発性-強制(非自発)性という単純な二分法に還元することなく、当人の意識を多面的かつきめ細かく分析することを試みた。就労意思決定を左右する可能な限り多数の変数を設置してデータを収集し、主成分分析など多変量解析を実施した。分析の主要対象は、情報サービス産業の保守運用サービス業務に従事する客先常駐の技術者、流通産業の店舗で働く短時間就労者、介護サービス提供分野で働く登録型ヘルパーである。この他の様々なタイプの非典型労働者に関しては、職種を問わずインターネット調査のモニターを対象として調査を実施した。本研究から得られた知見を要約すると下記のようになる。 1.非典型雇用者の就労意思決定における「能動性」という要素に注目すると、最も強い規定要因となっているのは、当人の出身階層に根ざす社会関係資源という要因であった。社会関係資源の乏しい層ほど受動的な決定を行っている。この発見は現代日本社会における貧困の再生産という仮説をおおむね支持するものである。 2.上記の結論にもかかわらず、非典型雇用者の就労意思決定が自発性の余地のない強制状況にあるとする、社会構造決定説が全面的に支持されるわけではない。現代日本の非典型雇用者は自由な意思決定の可能性を保持したエイジェントである。 3,本研究の政策的含意としては、日本の雇用政策の政策理念として取り上げられるようになった「労働市場における多様な選択を可能にする仕組みづくり」という理念はおおむね妥当なものであることを指摘することができる。
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