本研究の課題は、人材ビジネス産業の活性化と就業形態の多様化による雇用創出効果と問題点について、国際比較の視点に立って考察するものである。本年度に実施した調査研究は主に次の2点である。 1.日本における人材ビジネス産業による新しい雇用形態の創出の現状を明らかにするために、業務請負業に関する事例調査を実施した。業務請負は製造工程の請負と、それ以外の軽作業請負(倉庫内作業、イベント会場設営、引っ越しなど)に大別できる。前者の製造工程の業務請負は、同工程への労働者派遣が本年3月より解禁されるなど、今日の雇用形態多様化の焦点である。請負業者は、全国から労働者を募集し、寮に居住させて、工場へはマイクロバスで送迎している。労働者は発注元(就労先)の工場で正社員と混在して作業が行っているケースがかなり見受けられ、実態は労働者供給事業になっている事例がある。これは軽作業請負の場合にも見られる。業務請負でありながら、契約は業務を基準としたものではなく、発注元の企業で労働者が就労した時間を基準としている事例が多い。 2.日本政府は失業者の就職を促進するために、公共職業安定所の業務の一部を人材ビジネス産業(民営職業紹介業者)に委託する政策を具体化しているが、その成果と問題点を明らかにするために、先行事例であるオーストラリアの実態について現地調査を行った。職業紹介の質を高めるために民営職業紹介業者はさまざまな工夫をこらしている(たとえば、求職者との面談について一定基準以上の時間を確保する)。他方で、(1)政府は入札制によって委託先の民営業者を決定しており、実績が良くない業者は次年度には委託からはずされるため、経営基盤の安定に欠けるケースがあること、(2)民営業者の中には派遣業を兼営し、求職者を派遣業にゆだねることで職業紹介の実績を見かけ上で増やしている事例があること、などが明らかになった。
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