アメリカの勤労福祉政策は福祉受給者数を6年間で半減させるなど脱福祉政策の面では大きな成果を挙げてきたが、福祉離脱世帯の所得増加、就労長期化、低級不熟練職種以外での就労などの面では大きな限界を持っており、特に近年ではDCを含む51州のうち25州で受給者数が逆に増加に転じている.これらの点を「アメリカ型勤労福祉政策の成果と限界」というタイトルで2003年に『経済学研究』(九州大学経済学会)に掲載し、2003年5月の「日本財政学会」において「アメリカの勤労福祉政策」というテーマで発表した。 またカナダではオンタリオ州のハリス政府が福祉削減、給付引下げ、登録抹消などからなる広範な勤労福祉政策を導入した。ハリス州政府は福祉受給者の大幅削減で大きな成果を挙げたウィスコンシン州を勤労福祉のモデルとする制度を導入したが、低失業率という幸運に恵まれず、職に復帰するための広範な援護サービスも欠いていたので、福祉離脱の強制というアメリカ型勤労福祉政策の悪い面のみを模倣することになった。だが、そのために労働組合、反貧困団体や地方自治体の強力な反対運動に遭遇し、勤労福祉はほとんど機能していない。これらの点は反福祉の伝統を持ち勤労福祉政策が比較的機能しているアルバータを含む他の3州を分析対象に加え、「カナダの勤労福祉政策」というタイトルで2004年2月に論文にまとめ、現在、雑誌に投稿中である。 さらに、2003年度にはロンドンに2回、資料調査に行って収集した資料に基づき、目下、アメリカ型勤労福祉がいつ、どのようにして、どの程度までイギリスに導入されたか、を論文にまとめている。従って、ブレア政権の勤労福祉政策(ニューディール)の実態に関する分析は2004年度の課題となっている。
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