本研究課題を「勤労福祉政策の国際的展開-アメリカからイギリス、カナダへ-」としてまとめ、2005年に九州大学出版会から出版する予定になっており、平成17年度の科研費学術図書刊行補助金の申請も行っている。その内容は以下の通りである。 まず序章は、勤労福祉がアメリカに限定された政策ではなく、高福祉国家のスカンジナビア諸国を含むグローバルな現象であることを明らかにした。次に第1章は、アメリカ型勤労福祉政策が何を成し遂げ、如何なる限界を持っていたのか、その実態を分析して成果と限界を明らかにした。また第2章は、カナダがアメリカの勤労福祉政策から何を学び、それをどのように実施し、如何なる成果を挙げたのかを解明した。さらに第3章は、イギリスがアメリカを中心にその他の諸国から勤労福祉政策を学び、ニューディールを展開するまでの政策過程を追跡した。そして第4章は、各プログラムに立ち入ってニューディールの実態を分析し、その成果と限界を明らかにした。最後に終章は、各章の分析を通じて明らかになった論点を総括している。特に本研究は勤労福祉政策の対象が英米加の3カ国において異なっていることを明らかにした。例えば、アメリカ勤労福祉政策の対象は「給付に値しない貧民」と看做されるAFDC(要扶養児童家庭扶助)受給者、即ち未婚の母親世帯であった。だが、同じ福祉受給者でも高齢者、盲人、障害者は「給付に値する貧民」と看做されて勤労福祉の対象とはされず、権利給付としての福祉受給権を保障されていた。確かにアメリカは生涯給付期限や強制参加や制裁など厳格な要件を義務づけていたが、対象を専ら未婚の母親に限定していたので、対象がより広範なカナダやイギリスと比べて著しく厳格であるとは一概にはいえなかった。また勤労福祉政策はいずれの国でも福祉受給者の減少に寄与したが、福祉離脱者の自活を支援できず、臨時職やパートタイマーを増加させて労働市場の不安定化や階層化には拍車を掛けていたのである。
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