本研究によって明らかとなった成果は以下の点である。まず第1は勤労福祉政策がアメリカに限定された政策ではなく、高福祉国家のスカンジナビア諸国を含むグローバルな政策となっていることを確認した。第2はアメリカ型勤労福祉政策の実態を統計に基づいて分析し、その成果と限界を明らかにした。第3は、カナダがアメリカの勤労福祉政策から何を学び、それをどのように実施し、いかなる問題に直面したのかを解明した。第4は、イギリスがアメリカやその他の諸国の勤労福祉政策をモデルとしてニューディールを実施するまでの政策過程を追跡し、次に各プログラムの内容や医運営実態を分析し、その成果と限界を明らかにした。最後に、これらの分析を踏まえて勤労福祉政策はグローバリズムが世界各国に強制している不可逆的な構造改革の一環をなしている点を明らかにした。また本研究は勤労福祉政策の対象が英米加の3カ国において異なっていることを指摘した。例えば、アメリカ勤労福祉政策の対象は「給付に値しない貧民」と看做されるAFDC(要扶養児童家庭扶助)受給者、即ち未婚の母親世帯であった。だが、同じ福祉受給者でも高齢者、盲人、障害者は「給付に値する貧民」と看做されて勤労福祉政策の対象とはされず、権利給付としての福祉受給権を保障されていた。確かにアメリカは生涯給付期限や強制参加や制裁など厳格な要件を義務づけていたが、対象を専ら未婚の母親に限定していたので、対象がより広範なカナダやイギリスと比較して著しく厳格であるとは一概にいえなかった。また勤労福祉政策はいずれの国でも福祉受給者の減少に寄与したが、福祉離脱者の自活を支援できず、臨時職やパートタイマーを増加させて労働市場の不安定化や階層化に拍車を掛けたのである。
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