本研究は、開発途上国と先進工業国の双方を視野に入れて、持続可能な開発に資するように、アジア太平洋における中国、タイ、フィリピンなど途上国の個人経営体を対象とした草の根援助を具体的に提唱した。つまり、開発途上国の人々の主要な雇用形態・就業形態は、地域コミュニティにおける小規模な農業、製造業などの個人経営体が中心であって、資本形成は不十分なため個人経営体の労働生産性は低い。しかし、土地、森林、水、沿岸資源はローカル・コモンズとして、地域コミュニティのメンバーの利益を保護するように利用されており、資源の収奪は抑制されている。これは、メンバーが情報を共有した信頼関係が成立していたり、メンバー相互のモニタリングが機能したりしているためである。このようなローカル・コモンズの適正管理に加えて、個人経営体1人当たりエネルギー消費水準は低く、廃棄物やCO_2排出量も先進国よりも遙かに低い。 アジア太平洋地域の途上国における個人経営体を、社会的弱者やソーシャルセイフティーネットの取り組みとしてみるのではなく開発と環境保全の担い手として育成する方法を考えた。先進工業国は高水準の経済活動を続けて、エネルギー消費、廃棄物などの観点で環境負荷を高め、環境債務を累積させた。その一方で、資金技術の上では先進工業国の対応能力が期待されている。そこで、この南北の「共通だが差異ある責任」をふまえ、環境債務を返済するために、先進工業国は開発途上国への環境ODAを充実させるべきであろう。他方、開発途上国には、労働集約的技術に基づく大きな雇用吸収力、地域コミュニティによるローカル・コモンズの適正管理が指摘できる。また、天然素材の活用技術に優れ、廃棄物も少なく抑えられている。そこで、地域コミュニティの個人経営体を対象とした草の根環境ODAが持続可能な開発を推進する有力な手段となる可能性が高いといえる。
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