研究概要 |
主に戦後の欧州諸国では、ネオ・コーポラティズム-政労使による協調的な社会・経済政策運営メカニズム-が制度化されてきた。欧州連合EUも、1980年代半ば以降、ヨーロッパレベルの機構を構築する努力を重ねている。それは、各国モデルに比し、施行レベル(i.e.サブシディアリティー原則にもとづく分権的意思決定)と領域(e.g.EC条約により社会保障政策などを除外)の限定性、多大な地域差(e.g.英語圏や中東欧の新規加盟国で弱体)、ネオリベラル経済との競合などの問題を抱えつつも、市民の生存権に配慮した、経済成長に偏重しない市場経済のあり方として注目を集めている。 このリサーチは、マクロ(EU経済)、メゾ(セクター)、ミクロ(企業・事業所)レベルのEU共通制度の機能を、実証的または理論的に考察することを目的とする。 (1)2003年度は、近年のマクロレベルの政策的動向を追跡する作業から始めた。経済社会学会(9月)および日本EU学会(11月)で報告した中間的レポートでは、アクター、コンサーテーション(3者間の政策的協調行動)、EC条約にもとづく協議と法制化、労使による自立的政策形成の各観点から"ソーシャル・ダイアログ(社会対話)"の機能と帰結を概観、その間題点を考察した。欧州委員会などで行ったヒアリング結果が利用されている。 (2)2004年2月以降、これをベースにEU社会経済モデルをソーシャル・ディメンション(社会的側面)形成における効果、雇用政策と経済パフォーマンス、アソシエーショナル・デモクラシーの形成の3点から批判的に分析する作業を行っている。 (3)ミクロレベルの制度(欧州ワークスカウンシル)に関するリサーチ結果の一部('Managing European Works Councils from outside Europe')が、I.Fitzgerald and J.Stirling編のEuropean Works Councils : Pessimisim of the intellect, optimism of the will?に収録、刊行された。 当初計画していたミクロレベルの雇用政策の実証調査は、上記(2)の後に行う予定。
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