このリサーチは、形成過程にある欧州連合(EU)の社会政策を理論的および実証的に研究することを通し、経済的活力と社会的公正の均衡が保たれた社会のあり方を模索・提案することを目的とする。特にEUは、その社会政策形成の中核制度として、ドイツや北欧諸国の(ネオ)コーポラティズムを背景に、欧州レベルの"ソーシャル・ダイアログ(労使社会対話)"を発達させてきた。これは、(例えば市場状況を背景にした一方的決定ではなく)マクロ(EU)、メゾ(産業)、ミクロ(企業)の各レベルの当事者間の協調的対話により経済や組織を管理・運営する仕組みとして理解できる。 今期3年間のリサーチでは、マクロレベル制度の理解を中心に据えた。今年度は特に、EUマクロレベルのソーシャル・ダイアログの現状分析をテーマとし、それを各国(ネオ)コーポラティズムの構造と機能の中に位置づけ、比較することを試みた。コーポラティズム型の制度、賃金調整、社会・雇用政策などにおける政策協調(コンサーテーション)、歴史的変化の4項目を取り上げ、それぞれの基準に関して、EUシステムとスウェーデン、オランダ、ドイツ、フランス、イギリス、アイルランドなどの(非)コーポラティズム社会のものを対比した。現在のEUソーシャル・ダイアログの制度と機能は、特にネオコーポラティズム型制度と比した場合、"擬似(または半)"コーポラティズムに届かないかも知れない。しかし、特にそれがなお形成途上にある点を指摘し、シビル・ダイアログ(市民対話)との関連やメゾレベルの賃金調整の可能性などを新たなリサーチのテーマとした。 なお、リサーチの詳細は、担当者がこの研究以前に行ったEUミクロレベル制度の形成と機能分析を包括する形で、別途報告書にまとめる。
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