イノベーション政策において10年近い先進性を有するヨーロッパを調査の対象とした。注目したのはEUを世界で最も競争力が高い地域にするという、リスボンアジェンダ(2000年)である。そのための方法としてイノベーションを掲げている。制度面では各国の特許システムの調和、競争省をEUに設けること、また教育も主要な産業政策であるなど、大学など教育機関の役割(競争と連携)を重視することなどがある。 個別地域では、伝統型、旧来型の産業クラスター(フランス、ドイツ、中欧)の実態を調査し、地域の再生の側面からこれまでの産地論やクラスター論と比較した。国際競争の中で、広域的産業政策の重要性や、従来の中小企業の集積だけではなく、コーディネータを必要とする方向への転換などの知見を得た。特に、グローバリゼーションの進行下におけるイノベーションシステムは、その役割の重要性のみならず、システムの国を越えた伝播の可能性を指摘することができる。各国のイノベーション関連の機関を結ぶネットワークとして、IRE-IRC NetworkなどNGOや民間のシンクタンクが重要な役割を果たしている。 日本のイノベーションシステムの検証についてであるが、IMDの競争力指標では大規模国30国中11位である。イノベーションの量では力を持つが、その運用に問題がある。事例としては、地場産業集積におけるクラスターと政策の関わりを検証した。クラスターを維持する方向にある企業への支援のあり方が課題とされた。 そこで、イノベーションを支えることを目的とした産業支援機関に注目、1500件以上のデータベースを作成した。またこれらに対するアンケート調査を実施、産業支援の方向が「提供」から「仲介」、「創出」へと変化しつつあることを明らかにした。 イノベーション政策の現状分析のために、全国の基礎的自治体を対象としたアンケート調査を実施した。競争力を政府の公平性よりも重視する意見が多くを占め、また市場メカニズムの活用に積極的であるなど、マネジメント型のイノベーション行政が多数を占めることなどが明らかになった。つまり日本国内のクラスターにおいて、そのイノベーションシステムを支える政策については、インフラ整備などのハード面から、人的ネットワークなどソフト面への転換が進んでいる。
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