本研究の目的は、自由な国際資本移動の下で、発展途上国の経済離陸と資本逃避メカニズムに関する動学分析および開発戦略に関する政策的インプリケーションについて、国際投資家の最適化行動の観点から考察することである。本年度の研究実績は、第1に、経済発展と資本逃避の問題を分析した基本的理論モデルを、複数均衡点間の動学メカニズムについて明示的に時間的要素を導入したことによる改良が上げられる。以前のモデルでは、この動学メカニズムが定式化されておらず曖昧であったが、今回の改良によって理論モデルとしての完成度が高まったことが評価できる。また、この改良によって、モデルをより現実的なものにすることができたと同時に、国際投資家の最適国際投資ポートフォリオの下で、経済離陸(takeoff)と資本逃避(capital flight)のメカニズムを戦略的補完性という視点からマクロ動学のミクロ的基礎付けができたことも大きな収穫であった。第2に、このモデルの動学化によって経済発展に関する多くの政策的インプリケーションが導きだされたことをあげることができる。特に、為替レート安定化政策について、開放マクロ経済学における政策的トリレンマについて、通貨危機に対する適切な政策対応について、キャピタルコントロールについて、国際融資に関する政府保証政策について、金融自由化政策のタイミングについて、グローバライゼーションについて、政府の役割について、そして経済発展に向けての2段階戦略について、など多くの政策的インプリケーションを導出することができたことも大きな成果である。
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