本研究の成果としてまとめた論文は、経済発展と国際資本の関係を示すモデルを提案している。経済発展の初期段階においては、資本は相互補完的関係にあり、生産関数は収穫逓増を示す。その結果、国際投資家の最適投資行動の間には戦略的補完関係が生じる。それはマクロ経済的には、経済発展の複数均衡として現れる。すなわち、高均衡とそうではない低均衡の両方が理論的には存在可能になる。そして、低均衡から高均衡への移動が大量の国際資本流入を伴う経済発展に対応し、高均衡から低均衡への移動が大量の国際資本の流出を伴う通貨危機に対応する。本モデルは、いかに国際投資家が持っている収益期待値と投資リスクが、複数均衡の構造自体を変化させることによって、マクロ経済の最終的均衡を決定するメカニズムを明らかにしている。複数均衡の存在を所与とすると、経済発展における政府の役割は、経済政策を通じてマクロ経済を低均衡から高均衡に移動させること、もしくは高均衡から低均衡への移動を防ぐことにある。このようにして経済発展が成功し先進国の仲間入りをした場合には、マクロ経済は収穫逓減の経済発展の後期段階に入って行く。そこでは、もはや複数均衡は存在しないため、政府の役割も経済発展に伴って変化していかなければならないという結論が得られる。
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