主として以下3点の研究を行った。 第1は、銀行規制当局が、社会厚生のみならず自らの名声をも考慮して規制を行う場合に、どのような非効率的状況が発生するかを理論的に考察した(「規制当局の名声と裁量的銀行閉鎖政策」H16.7.24、統計研究会発表論文、未公刊)。規制当局が名声を重視する場合、社会的に最適な意思決定ルールから乖離することを明らかにした。そのうえで、理論からの実証可能なインプリケーションとして、(I)銀行優位な金融システムを有する経済は、市場優位な金融システムを有する経済に比べて、銀行閉鎖が行われにくい、(II)銀行監督者の天下りの可能性が広がるにつれて、(1)銀行の経営状態に対して不確実な情報しか存在しない状況における銀行閉鎖の可能性、(2)銀行の破綻状態が明らかとなった場合の銀行存続の可能性がより高くなる、など4つの仮説を提示した。 第2は、日本の銀行における情報生産能力の時系列的な推移を説明する理論仮説の提示である(「経営者の自己奉仕的帰属バイアスと銀行の情報生産」未発表、未公刊)。そこでは、「日本の銀行は、過去において高い情報生産能力を有したために、自らの能力を過信し、バブル生成の時期を通じて情報生産能力を失うに至った」ということを理論的に示した。 第3は、日本の個人投資家の行動についての実証研究である(「損を切って利を伸ばせ:Disposition Effect研究の展望」『生命保険論集』、2005年3月発表、未公刊)。本研究では、日本の個人投資家は「利益の早期確定と損切りの遅れ」といういわゆるディスポジション効果(Disposition effect)を示していることを実証的に考察した。前者の論文では、本研究の準備として既存研究を展望し、後者の論文では、日本の個人投資家の売買データを用いて、ディスポシション効果の有無を実証的に考察し、肯定的な結果を得た。
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