本研究の目的は、少子高齢化の急速に進展するわが国における、税制改革の指針を探ることにある。少子高齢化の影響を厳密に取り入れた分析を行うために、ライフサイクル一般均衡モデルによるシミュレーション分析の手法を採用している。分析の結果、累進所得税中心の現行の税制度から、新たな税形態である「累進支出税」への移行が望ましいことが示された。この改革によって、現行の税制度の下で生じるであろう、大幅な社会厚生の損失を克服できる可能性があることが明らかとなった。すなわち、所得から支出への課税ベースの移行は資本蓄積を促進し、また支出税に累進構造をもたせることによって、所得再分配を効率的に実施できることが定量的に示廃された。 累進支出税が効率性・公平性の観点から望ましいとしても、単一の税で全ての税収を賄うことは、非現実的であり、あまり適切でないと思われる。したがって、実際には何らかの税との組み合わせを考える必要がある。望ましい税の組み合わせについて検討するために、従来の労働所得税・消費税(支出税)・利子所得税に加えて、相続税を取り上げて分析を行った。 シミュレーション分析の結果、資本蓄積に与える影響については、相続税は支出税に次いで資本蓄積を促進する効果が強いことが見出された。また、近年わが国では親の世代の不平等が子の世代に引き継がれる傾向が強まっており、公平性の観点からも相続税の強化が支持される結果となった。相続税の強化によって、世代間移転(遺産)を通じて生じる所得分配の不平等が緩和されるからである。それゆえに、累進支出税を基幹税とした場合には、効率性・公平性の観点から、相続税が補助的な税として最も望ましいことが定量的に明らかとなった。
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