本研究の目的は、歴史上その規模からして最初の「証券投資のグローバル化」現象と見做すことのできる、19世紀後半から20世紀初頭にかけて展開されたイギリス海外証券投資の実態を解明することである。 研究は大きく2つに分けられ、第1に、イギリス海外投資が一方でグローバルに展開されたが、他方で、その投資先や投資対象の産業分布、さらに利用された金融手段がきわめて集中していることなど、イギリス海外投資の実態を解明した。まず、投資先では1865-1914年間に、主として米国、カナダ、アルゼンチン、オーストラリア、インドに集中し、それら5カ国でイギリス海外投資の55%を吸収した。また、投資対象では政府債と鉄道証券に集中し、両者で68%を占めた。さらに、イギリス海外投資の証券構成は債券、普通株、優先株、ノートに大別されるが、海外投資の74%は固定利付債(債券68%、優先株6%)によって投下され、株式は23%、ノートは3%であった。このように、イギリス海外投資はその集中性が特徴である。 第2に、海外投資の担い手であった証券投資家の実態の推測を試みた。これに関する直接的資料がないが、海外投資が中産階級の所得水準を直接反映していたとすると、海外投資資金の40%はロンドン資金ということになる。また、外国およびイギリス帝国内で活動している企業の株主の50%以上がロンドン在住であることからも、海外投資家の多くがロンドン在住の純投資家、商人階層であったことが推測される。このように、ロンドン投資家が国内企業よりは海外証券投資を強く選好するというバイアスが確認される。
|