研究概要 |
日本型租税政策の特徴を抽出するために,戦後租税政策の展開を政治経済学的視点から分析する作業を行ってきた。今年度は3年間の研究期間の初年度であり,経済学,政治学,社会学における内外の先行研究のサーベイを行うと同時に,OECDデータおよび税務統計に基づき,法人税の国際比較データおよび時系列,資本金別,産業別データの収集・分析を行った。この一方で,新政治経済学の第一人者であるSTEINMO教授とメールを通して意見交換を行うことで,新政治経済学の理論的精緻化の作業を行った。 これらの作業を通して,本年度においては以下の成果を得ることができた。第1に,法人税の文献サーベイを通して,法人税と個人所得税の統合間題については,従来のOLD VIEW対NEW VIEWの対立という視点よりも,NUCLEUS理論によってよりうまく世界各国の統合の動きを説明できることを示した。そして,この分析を通して法人の実態を反映した法人税と個人所得税のあり方への示唆および戦後日本の配当課税のあり方を評価する視点を引き出すとともに,グローバル化の中で,国ごとに異なる税制の収斂化の一方で多様な形態が現出していることを明らかにすることで,本研究の目的の正当性を確認した。 第2に,STEINMO教授とメールを通して意見交換を重ねるなかで,スウェーデンと日本における消費課税の比較分析を行い,平成16年1月16・17日開催の全米社会科学評議会・安部フェローの合同会議でSTEINMO教授とともに報告を行い,経済学,政治学,社会学の日米欧の研究者と議論を行った。消費課税について対極にあるスウェーデンと日本を取り上げることで,支払能力原則が課税の支配的原則となる中で,両国の政治経済がいかに対照的な消費税制度を展開させてきたかを考察し,それらの社会的・政治的インプリケーションを提示した。この分析を通じて,選挙制度および社会契約の概念が税制の差異を説明する上で重要な意味を持っていることが明らかにされた。この分析は,欧文での出版が予定されているConsumer Culture(仮題)の一つの章を構成することになっている。
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