研究概要 |
今年度は、前年度の研究成果を踏まえ,日本型消費税政策の研究の成果を確実にするために,Steinmo教授とのメールのやりとりを行い,推敲を重ねるとともに、幅広い意見を吸収するために平成16年10月30日・31日に東北学院大学で開催された第61回日本財政学会で報告を行った。そこでは,福祉国家財政の付加価値税への依存が国際的に進む中で、日本の一般消費税への依存が低位に留まっている理由と帰結を,新制度論アプローチと社会契約論アプローチを結合することで明らかにした。第1に,日本では,中選挙区制度下での自民党の支持の調達の中で形成された雑多な利益集団との社会契約によって、政治的エリートが短期的なコストを課すことが妨げられ,そのことが寛大な福祉国家建設と引き替えに逆進的な税負担の増大を受容するという西欧的は租税政策の展開を不可能にした。第2に,日本的な制度的枠組みの中で重視された生産者重視の政策は,国民の政府の再分配機能に対する理解を矯小化させ、政府の役割に対する不信を定着させ、グローバル化と少子・高齢化が進む中で、福祉国家の財源としての消費税負担の引き上げを困難にしている(論文1)。 上記分析を行う中で,年金改革として税方式化論や所得比例年金への一本化論が議論されているが,戦後構築された税制と社会保障制度の一体改革が主張されながら,それらの負担調整に関する問題が明示的に取り扱われていないことが明らかとなった。そこで,アメリカにおける所得税と給与税の二重課税問題を給与税導入当初からの制度的展開から考察すると同時に社会保障制度の理念に立ち戻った場合に要求される調整方式のあり方を包括的所得税論に基づいて整理することで,今後のわが国の税制と社会保障制度の抜本的改革に必要な視点を提示した。第1に,アメリカでの当初の議論は,社会保障制度の役割を,同制度を通じて達成されるより安定的な経済基盤を含む一般的かつ広範な社会的便益の提供にあると捉えており,この本来の目的に立ち返るならは,賦課方式に基づく年金制度の再構築が必要である。第2に,社会保障制度の目的に沿った年金制度の再構築を図るのであれば,拠出時控除,給付時総合課税を原則として,消費税目的財源化論,所得比例年金方式も所得税との負担調整のあり方を検討しなければ,これまでの日本的制度的枠組みのもとでは,アメリカに見られるような低・所得層への負担のしわ寄せが一層強まる可能性がある(論文2)。
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