本年はさまざまな文献に接する機会をあたえられ、歴史的事例、近年の理論的成果の把握に資することができた。 本研究の目的は、「1930年代以降、今日にいたる管理通貨制下の為替相場変動の長期的な動態を、為替相場の2大変動要因、すなわち、国際収支の変化(順逆)という『実質的』要因と、物価水準の変動という『名目的』要因にもとづいて検証する」ことであるが、諸文献を一瞥したかぎり、80年代の日米為替関係を「統一的」かつ「整合的」に説明した経済理論は、やはり今のところ皆無のように思われた。 当時の世界経済は、前半のドル高と後半のドル安という2つの「異常現象」によって特徴づけられ、両現象とも二期8年にわたる米国レーガン政権のもとにおいて発生、わが国の経済情勢に多大の影響をおよぼしただけでなく、現在にも尾を引いている重要なものである。ここで、為替相場の「本来の」動きというものがレーガン政権下の「人為的かつ反法則的な」政策によって偏倚した結果、法則が反動的となり、やがて政策を凌駕・廃却するにいたったとの推測がなりたつ。為替相場の変動は従来、貿易収支や資本収支など国際収支の状態を基礎に研究されてきている。しかし現在の通貨システムは「兌換」のおこなわれない「管理通貨制」であり、インフレーションという通貨価値減少(通貨減価)の危険性をつねに孕んでいる。現代の為替相場変動は「物価水準」こそを主要要因として分析されねばならないことに確信を得た。 次年度は戦前にまでさかのぼり、金融史的.為替政策的にひろい範囲での研究を試みたい。
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