DCF法は貸出債権に対して従来の方法よりも厳しい引当を行う。だからこそ、この手法は金融再生プログラムのなかで人々の注目を集めた。だが、DCF法について丁寧に調べていくと、必ずしもこの命題が導き出されるわけではない。つまり、従来の方法では要管理先債権に対して約20%の貸倒引当率が計上されていたが、DCF法を適用しても貸倒引当率が20%を必ず上回るという保証はない。反対にこの数値を下回るケースも起こり得る。それにもかかわらず、評論家やマスコミなどは盛んにDCF法は厳格な引当方法で、これが適用されると不良債権に対して厳しい引当が課されると主張する。しかし、これらの主張は、DCF法に対する誤解に基づいている場合が多い。会計実務上のDCF法と経済学で説明されるDCF法を混同している場合が多い。 本研究では最初に会計実務上のDCF法を紹介し、不良債権の引当金がどのように計算されるかをみていくことにする。そして、次にDCF法に対する誤解として2つのケースを取り上げ、DCF法への理解を深めていきたい。会計実務上のDCF法は経済学で通常考えられるアプローチと違っている。それにもかかわらず、そのことを無視し、勝手に分析を進め、異常なほど高い貸倒引当率を生み出している。これにより厳格なDCF法をことさら強調している。このような誤りをひとつひとつ解明しながら、最終的には一般に主張されているDCF法に対する命題について検討していく。その結果、実際のDCF法は従来の方法よりも必ずしも厳しい引当が行われるわけではないことを導き出していきたい。
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