研究課題
基盤研究(C)
本研究は「経済環境激変下における金融機関の経営行動」として、誰の目から見ても大転換したと認識された小泉純一郎首相(2001年4月〜2006年9月)のもとでの金融行政を対象にしている。それは大きく2つに分けることができる。ひとつは竹中平蔵金融相の「金融再生プログラム」であり、もうひとつは伊藤達也金融相の「金融改革プログラム」である。第1部では竹中平蔵金融相の金融行政を分析している。竹中氏が主導した02年秋の金融再生プログラムでは、当時の大手銀行グループに不良債権処理の抜本的改革を迫った。「会計」を武器としながら大手銀行の財務内容の劣悪さを曝け出し、経営改革を迫る強引な手法は過去の協調を重視した金融行政とまったく対照的なやり方であった。ここでいう会計的手法とは銀行の貸出債権を評価するにあたって新たにDCF法を採用したことであり、また将来の税金の前払いに相当する繰延税金資産を厳格に評価したことであった。これだけで大手銀行の財務内容は一転し、不良債権問題に向かって積極的に取り組まざるを得ない状況に追い詰められていった。第1部ではこうした竹中氏による大手銀行の不良債権問題への取り組みに焦点をあてながら、本当に正しい手法であったかを検討している。第2部では伊藤達也金融相によって策定された金融改革プログラムに注目し、そこで展開されている大手銀行グループ向けの金融コングロマリット化と、地域金融機関に向けたリレーションシップバンキングについて分析している。金融庁による金融改革プログラムで展開されている内容は現実の問題を直視すれば、実行するのが極めて難しい。それを強引に民間金融機関に強いれば、ただ混乱をもたらすだけである。まさに金融行政リスクの顕在化となる。本来、民間金融機関は市場の規律にしたがって行動すればよい。もちろん、将来の動きを先取りする能力が備わっていればそれでよい。しかし、成熟した日本経済は将来の動きが読み取りにくい。だからこそ、民間金融機関にとって市場からのシグナルにしたがって忠実に行動する必要がある。第2部はそうした考え方に基づきながら金融改革プログラムを中心に検討し、その内容に無理があることを理論的・実証的に明らかにしている。
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