本研究計画全体のテーマは、金融市場における「リスク」を如何に把握し、その動因と本質を明らかにするにはどのような分析手法が用いられるべきかを模索することである。今年度は欧米の最新の研究成果に触れることを通じて、分析手法そのものを検討することで研究を進めた。当初の計画に従ってCAPMから出発し、アノマリーを資産価格の過剰変動性(excess volatility)と捉え、確率ファイナンスの視点から検討した。以下は、その研究過程とそこで得られた知見である。 (1)パリで6月に開催されたForecasting Financial Markets 2004では、株価データそのものを注意深く考察することを通じて投資家行動や市場構造を検討することの重要性を認識し、モンテカルロ・シミュレーション、ニューラルネットワーク、ブートストラップ等の新たな分析手法に触れた。 (2)モンテカルロ・シミュレーションは、乱数発生の前提として確率分布の推定が鍵となる分析手法である。資産価格の過剰変動性(ボラティリティ・クラスター等の現象として現れる)は収益率の確率分布が正規分布に比べてFat tails & excess peakness (Stylized facts)であることを意味する。 (3)Stylized factsへの取組みとしては、 (1)GARCHモデル等の計量モデルによってexcess volatilityを再現し、そのデータ生成過程を理解する方法がある。 (2)Clarkの分布混合仮説は、株価の変動を確率変数と捉えるのみならず、データ(取引)発生時点そのものも確率変数と考え"time deformation"の概念により、価格ボラティリティの動態的変化を解釈し直そうとするアプローチである。この研究過程で、確率過程論の離散時間と連続時間の概念に興味をいだき、確率ファイナンスの研究に入っていった。 (3)9月にポルトガルで開催されたStochastic finance 2004で、ビョーク教授が指摘した研究手法(ファイナンス論、数学、確率論、計量経済学の手法が有機的に結びついて成果が発表される)の背後にあるintuitive feelingを理解することの重要性に共感し、確率論の時間概念、ポートフォリオ・リスクのマトリクス・アプローチ、モンテカルロ・シミュレーションによる分散投資の最適化の検討を行った。
|