年度当初の研究計画に従って、リスクを資産価格のボラティリティの視点から捉え、投機的資産市場でよく見られる資産収益率の確率分布が正規分布に比べて裾野の部分が厚く、中心部が高い(‘stylized facts'と呼ばれる)という統計的特徴を確率ファイナンスの視点から検討した。以下は、その研究過程とそこで得られた知見である。 1、共分散行列によるリスク分析 (1)ポートフォリオ・リスクの共分散行列による定式化 ポートフォリオ・リスクは、そこに含まれる資産価格のボラティリティと相関により決定される。共分散行列はそれらに関する情報の簡潔な要約であり、最適化問題をスプレッド・シートモデルで構築する際の要となる。 (2)共分散行列は、金融リスク分析に広く適用(VaR分析やストレス・テスト、J.P.MorganのRiskMetrics等)されており、リスクマネジメントの礎石となっている。 2、確率論的平均・分散最適化 (1)平均・分散分析の確率論的モデルとして性格に着目し、モンテカルロ・シミュレーションにより最適化を行った。決定論的手法の非線形プログラミングに比べ、モンテカルロ・シミュレーションでは、最適解の予測も確率分布として表現されるため、リスク評価がボラティリティ(σ)の値によるものに加え、ダウンサイド・リスク、VaR(Value at Risk)、 ETL(Expected Tail Loss)といった視点からの分析が可能となる。これは、統合リスクマネジメントへの適用拡大の展望を与える。 (2)モンテカルロ・シミュレーションによる最適化では、データ生成の前提となる確率分布の仮定が決定的に重要であり、その適否が最適解の精度を大きく左右する。実際の市場では、平均・分散分析が仮定しているように株価収益率の確率分布が正規分布とはならずstylized factsがみられるので、正規分布に加えステューデントt分布を用いて最適化を行い、ダウンサイド・リスクに関して比較評価を行った。 3、今後の方向性 VaRによるリスク分析を研究し、マーケットリスクの計測やBIS規制における内部モデルや銀行の統合リスクマネジメントへの適用を検討する。
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