本年度の研究によって得た主な知見は以下のとおりである。 1.スウェーデンの二元的所得税の実態に関して次の知見を得た。これらは日本の金融所得税改革にとって重要な教訓となる。 (1)同国の二元的所得税は所得税体系において勤労所得税を主役、資本所得を脇役とする役割分担関係を示している。ここで、主役とは所得税における税収調達機能と所得再分配機能の中心的担い手という意味である。 (2)二元的所得税の採用により資産所得間の税率・ロス控除率・利子控除率の均等化が実現し、資産選択に関しより中立的となった。 (3)二元的所得税における資産所得の一律課税化は、改革前の「限定つき」総合課税の資産所得税制より、垂直的公平の確保に貢献している。 (4)借り入れ利子控除は利子所得に課税する限り認めるべきとする所説に基づいている。また同制度は若年者の利子控除、老年者の金融収益課税によって世代間の公平に寄与している。 (5)同国の二元的所得税に関して残された中心課題は法人税制と個人所得税の統合問題である。 2.金融資産所得のロス控除のあり方に関して次の知見を得た。 (1)二元的所得税論による公平課税論を基礎にすると、危険資産のロス控除は本来、ロスを安全資産の収益(預貯金)と損益通算し、その結果、ロスが収益を上回った場合は純ロス×税率だけ税額控除を行う。このとき投資家が他の税を納税する予定であれば当該税を税額控除分減税すればよい。 (2)資産選択モデルによれば、二元的所得税が提起する金融資産所得に対する、均一税率構造および安全資産収益に対して危険資産のロスを通算するというロス控除制度は、ロス控除を制限し危険資産を相対的に重課する税制より投資家の危険資産需要を高める。 3.以上二つの知見をすでに論文として脱稿済みであり、来る5月に論文集の分担執筆として出版される予定である。
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