わが国におけるベンチャー・ファイナンスのあり方は、シリコンバレーにおけるそれとはかなり異なっている。その現状と問題点を、近年急速に発展してきた「契約理論(contract theory)」の枠組みを用い、広範なアンケート調査により実証的に明らかにした。すなわち、投資家とベンチャー企業とを仲介するファンド運用者ベンチャー・キャピタル(VC)の役割に注目した場合、「投資家とVC」、「VCとベンチャー企業」という二重のプリンシパル・エージェント関係が存在し、契約理論によれば、この両方を通じて、ベンチャー企業経営者の行動を最終的投資家の利益に合致させるようにインセンティブ・メカニズムが設計されると考えられる。この二重の金融契約のプロセスについて特に後者に重点を置いて広範なアンケート調査を実施し、わが国における契約理論の妥当性を検証したものが本研究である。 具体的には、「VCとベンチャー企業」のプリンシパル・エージェント関係におけるVC側からの評価として個々の投資案件が内包するリスクと、契約デザイン(コントロール権・キャッシュフロー権の配分を含む)との関係を検証した。政策的含意としては、わが国のこれまでの出資形態では、種類株式を含めてもコントロール権とキャッシュフロー権の権利配分に関して特定のいくつかの組み合わせを前提としているが、それらのより自由な配分を許すような、コントロール権とキャッシュフロー権を2軸とする座標平面上で議論されるべき可能性を探っている。同時に、「投資家とVC」の報酬体系を中心とする関係から、契約デザインおよびファンドのリスク管理の特性への含意を検証した。
|