今年度は、中世後期・近世初頭のリューベックとハンブルクの両都市を中心とした商品流通について考察を進めた。研究の中心となったのは、(1)以前から着手していた1500年前後のリューベック・ハンブルク間ルートを利用したバルト海・北海間商業の実態分析と、(2)ハンザ盛期・後期のリューベックにおけるロシア・リーフラント商品の取引状況の解明である。まず(1)については、リューベック商人の「申告証書」を史料として分析の対象とした。リューベック・ハンブルク間ルートを利用したバルト海・北海間商業の解明は、史料的制約もあり、我が国においてのみならずドイツ本国においても研究が乏しい。この点で、本研究は、近世ヨーロッパの国際商業及びドイツ・ハンザに関する知見を一歩深めるものであるといえる。分析の成果は、ハンザ後期のリューベックとハンブルクを中心とした北欧商業の展開という問題と結びつけて考察され、「日本ハンザ史研究会」(2003年6月)と「国際商業史研究会」(2003年7月)において史料紹介とあわせてその成果を報告した。(2)については、既存の研究成果と報告者自身の関税(ポンド税)台帳の分析結果、さらには(1)の成果を用いて、リューベックの東西ヨーロッパ間国際商業において対ロシア・リーフラント商業及びこれら地方の物産が担った役割を検討した。(2)の独自の成果としては、ハンザ期リューベックにおける対ロシア・リーフラント商業の重要性を数値的史料を用いて具体的に裏づけ、その実態の一端を明らかにすることができたこと、及び蜜蝋という重要でありながらこれまでわが国でほとんど焦点を当てられてこなかった商品について、ドイツの研究に依拠しながらその生産や商業に関するわが国における知見を深めたことが挙げられる。その成果は裏面に挙げた図書において発表の予定である。
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