本研究の目的は、戦前日本の外資系企業(とくに財閥系及び軍事関連大企業)の「コーポレート・ガヴァナンス」について「技術移転」と関連させつつ明らかにすることであるが、本年度は4ヶ年計画の第2年度に当たるので、一方では、戦前日本における軍事関連の外資系大企業史をどのように把握したら良いかという方法論を模索するとともに、他方では、日本製鋼所と呉海軍工廠についての資料収集につとめつつ、それぞれ現時点でわかる限りの整理・分析を試み、論稿をまとめて発表した(研究発表欄「図書」の『日英兵器産業史-武器移転の経済史的研究-』序章及び第4章)。 すなわち、前者(方法論模索)については、「武器移転と国際経済史」というタイトルのもとに、従来主として国際政治学や国際関係論で使用されている「武器移転」概念の経済史(国際経済史)研究への援用を試みた。つまり、19世紀末20世紀初頭における「経済大国」「軍事大国」イギリスからの「武器移転」のいわば「受け入れ」側にあたる後発・後進資本主義国日本の「軍器独立」過程をどのように捉えるべきかについての問題提起を行った(序章)。 後者(日本製鋼所と呉海軍工廠の分析)については、「日本製鋼所と『軍器独立』-呉海軍工廠との関連を中心に-」をまとめた(第4章)。日本製鋼所についての従来の研究代表者の研究は、イギリス側株主(アームストロング社及びヴィッカーズ社)との分析が中心であったのに対し、今回は日本海軍(とくに呉海軍工廠)との関連で日本製鋼所の「軍器独立」過程を明らかにしたものである。その結果、呉工廠を中心として日本海軍は日本製鋼所の設立過程のみならず、設立後の日本製鋼所に高級幹部・技術者を派遣してトップマネジメント・ミドルマネジメントに深く関わり(コーポレート・ガヴァナンス上の主要な利害関係者)、大口径砲製造に重要な役割を果たしたことを析出した。しかし、同時に、第一次大戦直後に三井財閥主導で行われた日本製鋼所と輪西製鉄所合併については、海軍の関与は稀薄であり、「軍器独立」上も問題を孕んでいたことを指摘した。
|