2年間の研究の初年度として、本年度は研究計画にしたがって次の作業を行なった。 (1)原史料となるウェストミンスター貧民尋問書および関連史料の調査とマイクロフィルム作成の依頼。当初はSt Martin in the Fields教区の尋問書のみをマイクロ化する予定だったが、それに加えて、隣接する教区St Clement Danesの同時期の尋問書もマイクロフィルムにより入手した。また現地での調査により、Removal Orderなど若干の補足史料も手に入れた。 (2)本年度は本格的分析のスタートとして、この史料から得られる情報にどのような種類のものがあるかを具体的に確認するために、1720-3年の尋問書を一例として全文転写した。この転写分は校正を加えたうえ、本研究の最終報告書に掲載する予定である。 (3)361ページからなるこの年度の尋問書には、438件の尋問が記戴されている。被尋問者の証書には、徒弟や奉公の場所、職業、年数、結婚の相手、年齢、場所、家族形態、賃金、住宅や家賃など、「移動」とそのバックグラウンドに関する多様で雑多な情報を得ることができた。ただし、統計的に分析するためには、これらの情報をデータベース化する必要があるが、記緑の仕方や詳細さには当初予想した以上に尋問一件ごとにばらつきが大きく、どのように整理するか、現在検討を重ねている。 (4)貧民尋問書を用いて18世紀の移動を分析した本格的な研究としては、その後の調査で未刊行学位論文がいくつかあることが判明した。また、尋問書の性格(誰に対し、何の目的で作成されたか)について、比較的最近、重要な論争があった。これらについてのサーヴェイ論文も現在準備中である。 (5)尋問書とは違ったタイプの移動を知るために17世紀末ロンドンの市民登録簿を用いて、ロンドン市民の出身地、家族背景などを分析した論文を発表した
|