研究課題
基盤研究(C)
18世紀ロンドン郊外ウェストミンスターの貧民尋問書を対象とする本研究は、二つの方向から進められた。一つは定量的アプローチである。まず尋問書に記載されている貧民の証言をもとに彼らの経歴を一定の形式のもとに整理し、それをデータべース化する。この貧民の出生、徒弟、奉公、賃金、住居、結婚、家族構成、移動、親族関係、識字能力などに関するデータを統計的に分析し、貧民の生活状況と移動の実態を明らかにする。研究期間内に二つの教区について、約1200人分のデータを収集・整理できた。しかし尋問書の形式や内容にはかならずしも一貫性がなく、これらのデータの正確な解釈にはより具体的な裏づけが必要となる。そこで本研究では、もう一つ、記述的アプローチも同時に行った。尋問書には貧民の小さな伝記と呼べる内容が含まれている。それらを丹念に読み込むと、統計的分析では明らかにできない貧民の経歴や移動の実態が浮かび上がってくるからである。この目的のため、本研究では尋問書のうちのひとつを選んで、その全文を転写し、経歴の個々のケースをより厳密に再構成することを試みた。結論の一部は次のようなものである。尋問書の証人ないしその夫のうち、ウェストミンスターとその近郊地域で生まれたものは三分の一程度だった。だが彼らのほぼ四分の三はこの地域で徒弟や奉公につき、結婚した。目だった遠距離移住者はアイルランド人である。外国やアイルランドで暮らした経験をもつイングランド人もいたが、彼らの遠距離移動の動機となったのは、特定の職業(船員、貴族層の奉公人)従事か、軍隊勤務であることが多かった。証人のデータ分析では、奉公期間も借家継続期間もかなり長いが、個々の証言を詳しくみると、それまでに1年以下の奉公や借家を何度か繰り返していることが多い。識字率の水準は特別に低くはなく、とくに18世紀後半、女性のそれが改善された証拠がある、など。
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早稲田大学社会科学総合研究 5巻3号
ページ: 1-21
早稲田大学社会科学総合研究 5巻1号
ページ: 143-160
Waseda Studies in Social Sciences Vol.5, No.3
Waseda Studies in Social Sciences Vol.5, No.2