平成16年度は、3ヵ年計画である本研究課題の中間年に当る。そこで、これまでに収集した史料の中間的分析とその公表を行った。具体的には、本研究課題に先立って作成した学位論文「17世紀イングランドにおける家共同体の解体-論争史とサウサンプトン市地域史」を修正して、『近世イギリス家族史』として公刊した。その際の、本研究課題に直接基づく修正点は以下の2点である。 1、世帯考察の基礎史料である「結婚税」の分析について まず、分析対象の拡張を図り、学位論文ではサウサンプトン市8教区の内2教区のみをデータベース化して用いたが、本研究課題1年目に当る平成15年度に全8教区のデータベースを作成したので、これを分析対象とすることができた。さらに分析方法も改良し、学位論文ではラスレット以来の教区単位の分析を踏襲していたが、今年度は統計学的な応用と工夫もあり、世帯単位の分析をおこなうことが可能になった。これらによって、既存の研究と比べ大幅にサンプル数を増やすことが可能になり、特殊な性格をもつ世帯の考察が可能になった。例えば、生産的労働を行う成人の子供が親の世帯に留まる世帯を世帯主の性別等との関連で考察するというようなことが可能となり、世帯が生産単位から消費単位に転換する際の性別役割の変化等も示すことができた。 2、世帯を取り巻く関連史料の分析について 学位論文以降、世帯を取り巻く階層や地域社会の変化の考察を進めてきたが、平成15年度にはサウサンプトン市以外の都市に関して既存の史料を利用してモノグラフなどを発表してきた。今年度はこの方法をサウサンプトン市やその後背地であるハンプシャーの農村に適用することによって、サウサンプトン市の世帯の特徴や変化といった微細な問題をより大きな背景のなかに位置付けることを試みた。具体的には、今年度新たに16世紀の臨時税や17世紀の炉税などの課税史料や市会議事録などの分析を行うことによって、サウサンプトン市の人口や階層構成の変化と共にサウサンプトン市と周辺農村との間の奉公人の移動との関連でサウサンプトン市の世帯の構成と機能が変化していることが明らかになった。 もとより、世帯を取り巻く要因としてはまだ考察すべきものが多くあり、また結婚税のデータベースとしての公刊の為には史料のリンクなどに改良の余地が有り、いずれも次年度の課題として残されることになった。
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