本研究の課題は、「近世に世帯と家族はどの様に変化したのか」ということであった。本研究では、サウサンプトン市という具体的な一つの地域社会をとりあげることによって世帯と家族の変化の過程を見てきた。その変化は、世帯と家族にとって最も決定的な変化、すなわち世帯の内部に包摂された単位である家族が独立した単位となるという意味において、家族の誕生といえるような変化であった。もちろん、近世初頭までの中世以来の世帯の中にも家族が全く存在しない訳ではなかった。研究史上、イギリスの世帯は「小規模・単純」世帯と表されるように、通常一つの世帯には一つの核家族しか含まれていないことが一般的だった。しかしその世帯の内部には、家族とほとんど区別されない奉公人が含まれており、そうした奉公人と家族からなる世帯は、家庭生活を共にするだけでなく独立したひとつの労働の単位を構成していたのである。 本研究で明らかになった世帯の変化というのは、こうした世帯において家族から奉公人が分離すると共に労働の場と家庭が分離するという二つの分離の過程であった。具体的には、近世末の時点で二つの分離の結果すでに家族が独立していること、さらにそれが近世に分離したものであり、中世以来のものではないことを明らかにしえたと思われる。一方同時に、世帯や家族を取り巻く地域社会の変化も考察した。結果として、家族を地域から切り離して考察するという既存の研究の方法的問題点も明らかにしたはずであり、研究史的貢献もあったと考えられる。 狭義の実証的な成果としては、研究全体の基礎史料となる住民台帳のデータベース化を行った。イギリス人研究者の協力も得てその主要部分は公表した。 サウサンプトン市に関する限り成果はほぼ研究期間内にまとまり著書及び論文などで公刊することができた。
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