本研究は、分子生物学・遺伝子工学とデジタル情報技術の結節点にあるバイオインフォマティクスが、医薬品研究開発のプロセスとマネジメントにどのような影響を及ぼしてきているかを明らかにすることを目的とした。 研究方法としては、詳細な文献調査および国内および海外の研究者や経営者、専門家への準構造化インタビュー調査を実施し、定性的・定量的データを吟味するという方法をとった。そのほか、バイオインフォマティクスの発展と現状について、特に医薬品開発との関わりを中心に、イギリス、フランス、スウェーデン、日本について調べるとともに、日本の医薬品企業の研究開発の変化についても調べた。 これらの調査分析から得られた知見は以下の通りである。バイオインフォマティクスの医薬品研究開発プロセスへの浸透は、このプロセスを分子生物学的アプローチに基づくものへと変えつつある。これにより、医薬品研究開発プロセスの技術的な合理性は進行するが、それが直ちに経済的な合理性につながるとは限らない。バイオインフォマティクスの貢献の弱い技術領域や、人間や組織の評価能力、システムのコスト、市場、競争関係などが媒介要因となっているからである。しかし、バイオインフォマティクスは、医薬品のイノベーションに、新たに分子生物学的作用メカニズムの形成という局面を加え、また、組織間の分業を促進したという点で、医薬品研究開発のマネジメントにとって重要な変化をもたらしたといえる。この医薬品研究開発をめぐる組織間分業については、アカデミックな世界とビジネスの世界との「架橋」問題という観点で捉えての考察も実施した。 研究成果は今回提出の研究成果報告書のほか、その部分を2本の英語論文、4本の日本語論文、1回の国際学会報告、1回の国内学会報告(2006年9月予定)、1本の書評として公表した。
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