大量生産による規模の経済を追求したアメリカ的な生産方式とは異なり、日本の製造企業ではリードタイム短縮・フレキシビリティ向上・品質向上・コスト削減の同時実現を目指して、生産に携わる作業者の自主性を尊重し、改善のプロセスを積み重ねていくことが重視されてきた。生産現場の作業者の高い労働意欲に支えられた改善活動、日本独自のジャスト=イン=タイム生産方式、高度なマイクロ=エレクトロニクス技術と従来からの機械工学的ノウハウを融合させた「メカトロニクス」の概念などに象徴される、日本独自の「もの造り」思想が日本企業の国際競争力の源泉のひとつであるとの認識のもと、本研究ではこうした日本的な「もの造り」の思想が、どのようにして形成され、どのように変質してきたのか、より具体的には「メカトロニクス」という新たな概念がどのように発生・普及してきたのか、またその形成・普及・変質のプロセスが、企業のパフォーマンスや産業の競争力につながるのかを検討することを目的としている。 この目的のため、平成15年度には予備的な情報収集を行った。先行研究や調査レポートを収集し、「メカトロニクス」という概念の発生・普及のプロセスについての事実関係を確認する一方で、富士通などのエレクトロニクス企業に対して聞き取り調査を行い、生産技術の変遷、その背後にある「もの造り」の思想の変化、現時点での生産技術上の問題などに関する知見を得て、日本的な「もの造り」思想の発展プロセスの概要を把握した。
|