日本的な「もの造り」思想、特にその中でも「メカトロニクス」という概念の発生・普及のプロセスを分析するために、まず平成15年度には予備的な調査として、生産技術のエレクトロニクス化に関する国内外の文献資料を収集し、エレクトロニクス企業に対して聞き取り調査を行った。平成16年度には、日本的な「もの造り」思想の発展プロセスの実態を把握するために、エレクトロニクス企業の生産技術者を対象に聞き取り調査を実施する一方で、新聞・業界雑誌・技術誌・学会誌などの「内容分析」のための分析対象データを収集し、電子ファイル化を行った。こうした調査プロセスにおいて、「メカトロニクス」という概念の発生・普及のプロセスについての事実関係を確認し、日本的な「もの造り」思想の発展プロセスの概要を把握した。現時点までに、日本企業が自らの製造技術に対していだいている評価は、産業全体の国際競争力と直結していることが確認できている。「メカトロニクス」という単語は、誕生後比較的短期間で人口に膾灸するようになり、いわゆる「高度成長期」のわが国製造業の国際競争力の高さを説明する有力な要因とのひとつと考えられていた。しかし、1980年代後半以降の急激な円高を背景とした製造業の海外シフトや、情報通信技術の急速な発展による事業環境の激変によってわが国の製造業全体の競争基盤が低下するにつれて、「メカトロニクス」に対する注目度が低下している。近年、顕示的に「メカトロニクス」という単語が用いられる頻度は低下しているものの、そこで示されたもの造りに対するインター・ディシプリナリーな姿勢は継承されてきた。今後は、こうした「もの造り思想」の発展プロセスが、近年の企業競争力に与えた影響という側面に注目し、検討していきたい。
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