研究機関の初年度にあたる2003年度は、(1)研究課題に関する理論仮説の構築のための先行研究、関連分野の理論研究のサーヴェイと、(2)特にアメリカ企業における雇用慣行の形成と変化に関する企業資料の収集を中心的な課題として、研究に取り組んだ。 (1)に関しては、(1)大企業の長期雇用慣行を説明するに当たって従来最も有力と考えられてきた、企業特殊熟練(firm specific skill)論を軸とした、企業内部労働市場説に立つ諸研究と、(2)官僚制組織の人的要件を重視する考え方、組織における長期コミットメントの重要性という観点に立つ考え方などとを検討した。結果として、企業特殊熟練の概念上の問題点とその適用範囲の限界から、内部労働市場説のみでは日本とアメリカの歴史と現実を十分に説明できないことが判明した。このため、現在、上記(2)に分類された議論の整理を行ないながら、(1)を補完する仮説の構築を行なっている。 (2)に関しては、2003年7月末から8月中旬にかけて、アメリカ合衆国の企業関係資料館(Kheel Labor Management Documentation Centerなど)において会社文書関係の集中的な調査を行い、特に第二次世界大戦直後における、金融機関を含む多くの大企業において、ホワイトカラーの雇用保障と内部昇進を明示的なルールとして確立するという人事政策が広範な企業で確立されたことを示すデータを確認することができた。また、ブルーカラー従業員に関しては、基幹産業における大企業において、第二次世界大戦前から、勤続年数を重視した労務管理が実施され、それが、後の先任権に結びつくプロセスに関する有力な資料を発掘することができた。
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