研究概要 |
平成17年度においては,「企業の社会的責任」,「企業統治」などの基本的な用語を確認すると共に,諸理論における企業観,特に,株式会社観についての検討を行なった。それは,日本において,未だ,そうした諸概念の混乱が見られるためである。たとえば,「法令を遵守する」という言葉により,倫理的な企業や組織,個人においては,法令の文言ばかりでなく,その精神をも尊重し,「企業倫理」とほぼ同じ内容を指すことが多い一方で,倫理的なことに関心のない企業や組織,個人においては,法令の文言に書かれていなければ何をしてもよいとの理解を有しているのである。平成17年に起きたライブドアとフジテレビとのニッポン放送株式をめぐる攻防を見てもそのことが明らかである。また,企業における倫理的行動の促進ならびに反倫理的行動の防止に関して,個別企業,業界団体等の自主規制,NGO等の関与,政府の政策や規制等の点から,米国,英国,日本等の国際比較を行ない,実効性の観点から,企業統治の側面においては,透明性および公正性を担保する仕組みを構築することが重要であると同時に,効率性ばかりでなく倫理的な価値理念をも追求する組織のあり方が重要であることが明らかとなった。米国では,エンロンの経営破綻からわかるように,形式的に企業統治の仕組みや企業倫理の制度が整っていても,効率性や自己の利益のみを追求する組織のあり方では,透明性も公正性も担保しえないからである。それゆえ,英国においては,社外取締役の実効性を高める方策が検討されるとともに,OECDの改訂企業統治原則では,取締役の責任の中で,「法令を遵守する」とされていた部分が「高い倫理基準を適用する」という文言に変更されているのである。公的規制の枠組みの中でも,企業の倫理的な行動を促すような仕組みを作ることがより重要になっていることが確認された。
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